品貧生活研究所

目標︰アルバイト卒業/症状︰ASD,ADHD,AC and more.【1L2CK.YOKOSUKA】(イベント・レンタルスペース)/毎月第三土曜日【贈与喫茶Mr.エレファント】(無料カフェ)/毎月最終土曜日【哲学カフェ横須賀】/【なんでもやっとうと?】(便利屋)→「あなたの小銭が必要です」

190430

『げざんのとき』

ガラケーが鳴る。

山から下界へ降りずに、ずっとスマホをやっていた。食糧は事前に調達しておいたので、下に、用はない。耳を澄ませる限り、家の前を通るのは隣人と、夜中の新聞配達員くらいである。あとは台湾リスの足音。ガガガガガと、トタン屋根を走る音以上の音は谷戸に、響かない。一日半ぶりに外に出ると温かい。家の中より、外の方が温かいのだ。壁があるのに、壁のない世界の方が温かい不思議。それは知っている。でも、分かっていても降りるわけにはいかない理由のあることも知っている。温かさだけを求めていては駄目なことも。だから、冷たい部屋に閉じこもり、雨戸を締める。

ガラケーが鳴る。

つけあがりを防ぐ為に、目の前のひとを馬鹿にしないように、自分をとことん馬鹿にする。

ガラケーが鳴る。

ふと、声をかけたくなる衝動に駆られる。何でも良いから自分から挨拶をしたくなる。そんな時は股間に手を入れ、グッと睾丸を握る。十秒すれば衝動のおさまることを僕は知っているから。その方が明日が良くなることを知っているから。動き過ぎては生けない。千葉からの声が聞こえる。ここは横須賀よ。神奈川からの声もまた聞こえる。

ガラケーが鳴る。

動き過ぎたり、ひとと不用意に喋りすぎては生けない。いっときの滾りはまた長い自責を生むことを僕は知っている。そう、僕は何でも知っている。だから、駆け足で階段を200段、降りなくてはならない。

ガラケーとスマホを分けているのは、パン屋時代の名残である。悪しき慣例。不経済であることは知っている。

仕事とプライベートを分けていた。分けたところでプライベートのスマホが鳴ることはないのだけれども。

社会人1年目。地震の年だった。休みの日は持ち帰りの仕事をやっていた。アルバイト従業員100名のシフト希望を、エクセルに打ち込む。2週間ごとのその紙の、1行でも打ち間違えるとそのミスは全て自分に跳ね返ってくる。休みの日に仕事場に行くことになりかねない。と言っても、歩いて90秒、外階段を駆ければ45秒の場所だから、行くこと自体に、さして苦労はない。肩代わりして働くことがなければ。しかし、肩代わりと言っても、自分のパソコン操作ミスの場合は肩代わりでもなんでもない。自分のケツは自分で拭く。「当然」のことだ。だが、学生アルバイトが風邪を引いた、寝坊した、店が開かなくなるよ(そんなことはないのだ)と、ガラケーに電話が来れば、いくら前の晩に夜ふかしして、アルコールで頭がボッーとしていても、隣に女の子が寝ていても(これは確かなかった)、行かねばならぬ。それが僕の「当然」の仕事であり、「責任」であるからだ。

だから、慎重にエクセル入力する分にはいくら慎重になっても越したことはない。指差し呼称もやった、二度三度見直した。うるさがたのパートのババアや、リーダー核の学生のシフトは特に。ただ、時間は平等に流れる、灯は暮れる。まだ入力すら終わっていない。煙草を吸う。そして、いくら慎重にシフトを作っても、前日にガラケーは鳴るのだ。

「あれ、この日私シフト入れてましたっけ?確認してくれませんか?」

だいたい僕は負ける。今日もまた、また明日も仕事場へ行くことになる。どれもこれも自分の責任である。

「ちゃんとやれよ」

それはね、あんたに言われなくても、僕が1番良く知っているつもりなんだよと、言ってみたかったけど、言えなかった。言う相手もスマホにはいなかった。

ただ、

「それがたとえ不幸であっても、人間は〈刺激〉」を求めて止まないんですよ。飽き足りないんですよ。そういうもんなんですよ」と、励ましなのか貶めなのか判別できないことを言ってくれる学生の子がいて、それだけが、なんとなくの慰みになっていた。

そうだな。「生きている」感はあるな。たとえ、使いみちのないボロ雑巾のような僕も。結局、幸福や不幸ではない「生きている」感が、欲しいだけのような、そんな気もしてきた。良し、自分磨きして寝よう。シフトは、明日出勤前にやろう(これも確かなかった)

〜〜〜

山の中腹にて(谷戸)

ガラケーをパン屋を辞めた今もまだ持っている理由はただひとつしかなかった。母の死を待つだけ。それだけのガラケー。

だからドキリとともにワクとしてガラケーを見る。

母ではない、ある女の決断の報告だった。

嬉しかった。

ガラケーに不幸ではないが刺激的なショートメールが入っていたことに。

嗚呼、このひとには幸せに、なって欲しい。なれるし、現になっているし。祝福したい。言葉にして伝えるのは嘘くさく、野暮ったくて、暑苦しいけど、そうしたい。から、そうした。

つぁらつぁらつぁらつぁら♫

⚠シンコペーション(かつチンコベーション)

お腹が減ったから山を降りる!!!